がんばれ加藤さん 〜年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません〜
LINEスタンプ編
僕は、あることに頭を悩ませていた。
それは、高井綾香からどうやってLINEの連絡先を聞き出すか……ということ。
忌々しい、あの河西とは、LINEのやりとりをしているということは知っている。
そこは、同期だから交換するのは仕方がないと……大目に見てやっている。

だがしかし。

彼女は僕とのランチの約束については何も気にしないくらい……僕との約束そのものにまるで興味がない。
だから勿論、LINEなんて聞いてくるなんて、ありえない。

メールはかろうじてできる。
だがそれはあくまで社用携帯に入っている会社専用のメールだから。
でもそれだと意味がない。

会社の中であれば、そのメールでも十分機能……高井綾香と連絡を取る……は果たしてくれるが、一歩会社の外に出てしまえば、そんなものは使い物にならない。
さらに言えば、もしどちらかがこの会社を離れたら、今度こそ一生……会えなくなるかもしれない。
そんなこと、僕の頭脳にかけても許さない。

というわけで、いかに高井綾香にLINEを交換したいと思わせるか……を真剣に考えることにしたわけだが……。

「普通は、どうやって聞くんだ?」

僕は、連絡先を聞かれることはあっても、自分から聞くという経験は一切したことがなかった。
というわけで僕は、インターネットの力に頼らざるを得なかった。

「LINE 聞く方法」

で検索をかけると、良さそうなサイトがいくつか出てきた。
それぞれに書かれていた内容は

【「LINE交換しよう」とストレートに聞く】

が圧倒的。
……それができたら苦労しないから!!!

他には何かないだろうか、と探してみると……

【知っていて当然のように聞く】

とある。
いや、普通に聞いてるだけだし。

他にはないだろうか。

【謙虚な態度で聞く】

これも、聞いてるし。

……他には!?
他にはないの!?

あ。
これなんかどうだろう。

【画像を送りたい】

……僕と彼女は、そういうのを送り合う関係では、残念ながらない。
だけど、他のも見ている中で連絡先交換で1番シンプルなのは、連絡先を知らないとできないことを要求することだ……ということはこのタイミングで分かった。

でもここでもう1つ、大きな問題がある。
メールアドレスが、互いのものを知っているのだ。
つまり、画像を送りたいという理由では

「じゃあメールで」

の一言で片付けられてしまう。
そういうことを、あの高井綾香は無意識にしてくる。
僕は知っている。


「くそ……他には何かないのか……」

できれば……LINEじゃないとダメなもの……。
そう思ってふと、あるものの存在に気がついた。

「画像じゃなくて……スタンプなら、どうだ」

LINEがここまで流行したのは、スタンプという機能のおかげ。
文字を打つのがめんどい時でも、親指1つで気持ちを伝えられ、しかも画像付き。
最初LINEを知った時は、便利になったもんだなと思ったこともあった。
ただ、自分は文字を打つだけで済むから必要性を感じたことはなかった。
だけど、高井綾香は違う。
僕は知っている。
河西と、スタンプのやりとりをしているということを……!
決して、覗き見をしたわけではない。
偶然、見えてしまっただけ。
つまり、彼女はスタンプを日常的に使っている……ということは、これならどうだ。

彼女が持っていないスタンプを、僕が持っている状態にする。
がスタンプを見て欲しいと考える。
僕が、そのスタンプを高井綾香に押してあげることで、彼女は欲しいと思ったスタンプを手に入れやすくなる。
そして僕に感謝をして……もっとスタンプを見たいと言ってくる。
そうして僕と彼女は、毎晩仕事のあとにLINEでも繋がれるようになって。
それから……。


うん。
我ながら、いいアイディアだ。
早速、LINEスタンプを買おう。
とは言え……彼女はどんなスタンプが好きなんだろう。
動物系は鉄板だから全部買おう。
あと……人気のアニメとかも、何か1つくらいは好きなものあるだろう、全部買おう。
それからシュール系は……好きそうだ、全部買おう。
そんなこんなで、あっという間に使いきれないほどのスタンプが溜まってしまった。
よし。
これで、高井綾香とのLINEに関する話をする口実ができた。
クレジット明細は、ちょっといつもより数万円多くなった気がしなくはないが……先行投資と思えば悪くないだろう。
あー早くこのスタンプを彼女に送りたい。
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