がんばれ加藤さん 〜年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません〜
服のプレゼント編
僕は、高井綾香を会社に出社させなかったその日、帰り道にデパートに寄った。
目的は1つ。
どんな服をプレゼントすれば、彼女はあの忌々しい男の臭いがこびりついた服を捨ててくれるのか。
その1点のみ。

昨日の夜、高井綾香が、あの河西……達と飲み会なんてものをしていたことも腹立たしかったが、1番腹に据えかねるのは、高井綾香の体にベタベタと男が抱きついた事だ。
ずっと、河西ばかりに気を取られていたが、まさか他の男も彼女に気があるなんて……。
しかも、僕の目の前で「ホテルに連れ込む」なんていう聞き捨てならないセリフまで……。

くそっ。

あいつの脳内で、彼女が汚されたんじゃないかと考えるだけで、吐き気がした。
あんな声を出したり、こんな表情をしている彼女のことなんて、他の男は知らなくていいし、想像することすら許さない。

あいつの上司は誰かについては、早速今日調べがついたので、これ以上彼女に接触をしてくるようならすぐに行動はできる。
それはまあいいとして、だ。
今日彼女が身につけていた服。
あの服は彼女のお気に入りなのだろう。1週間に1度は必ずあの服を身につけている。
だけど、僕はあの服を見るたびに、きっと今日のことを思い出してしまう。
何としても、捨てさせる。
上司命令として言ってもいいが、パワハラに受け取られても不思議じゃない。
あの服を着た彼女もとっても可愛いが……この際僕が選んだ服を身につけて欲しいという欲も芽生えたので、さっそく実験することにした。

そこで、急遽色々調査してみた結果、この店の服が1番、彼女の可愛さを引き立て、かつ彼女の趣味にも僕の好みにも合うのでは、ということが分かったので、店が閉まる5分前にギリギリ滑り込めた。

「あのぉ……」

店内で暇を持て余していたであろう、女性店員が僕に話しかけてきた。
馴れ馴れしい態度だな、と思ったが、この際どうでもいい。
存分に利用させてもらう。

「お兄さん、かっこいいですね〜」

女性店員が名刺らしきものを渡してきたので、それを受け取ってそのままポケットに突っ込んだ。

「今日はお姉さんか妹さんへのプレゼントですか〜?ぜひお手伝いさせてください〜」

と言ってきた。
それでは、遠慮なく。

「違う。部下の」
「ぶ、部下の方へ……ですか???」

妙に驚かれた気がする。
が、今はそんなことにかまけている場合ではない。

「そうだけど、何か?」
「…………ハンカチとかでしたらこちらに」
「この店で1番高い洋服はどれ?」
「…………はい?」
「だから、どれ」
「それでしたら……こちら……ですが……」

急に、不機嫌な様子を見せてきた女性店員の態度には不満があるが、今はこの際どうでもいい。
女性店員が見せてきたのは、パーティーなどのときに着るドレス。
確かに値段はちょうどいいぐたいの高さではあるが……これではない。

「会社で着られるような服は?」
「か、会社でですか?」
「そう」
「会社は……こういう系統の服を着ても大丈夫なのでしょうか?」

こう言う系統、とか言われても僕には分からないが、社内に似たような服を着ている女性はいる。

「ジャケットさえ着せれば、問題ない」
「そう……ですか……。ちなみに……部下の方はどんなジャケットを着ているのでしょうか?」
「どんな、とは?」
「色とか、形とか……」

そう言われてみて、気づいた。
彼女はいつもジャケットではなく、紺色のカーディガンを身につけることが多い。
今度、ジャケットも買いに行くか……。
できれば彼女の良さを引き出すために、オーダーメイドで作らせたい。
それを口実に誘うとか……。

「あ、あのぉ……お客様?いかがいたしました?」
「いえ、何でも」
「そうですか……。それでどんなジャケットに合わせますか?」
「ジャケットも別で買います」
「え」
「オーダーメイドで作らせます」
「あ、そ、そう……ですか……」

女性店員はそのまま

「少々……こちらで……お待ちください」

と言うと、店中から色々な洋服を持ってきた。

「これらが、当店のオススメの品でございます」

と、女性店員は言ったそれらは、社内で1度は見かけたことがある洋服ばかり。
着ている姿は似合いそうかも、とは思ったものの……。

「他にはないの?」

他の女と同じ洋服を僕があげたという事実を、彼女にどう受け止められるかがちょっと怖かった。
女性店員はしばらく宙を見たようだったが、蛍の光のBGMが店内に鳴った瞬間

「すみません……具体的にどういう方にお渡しするのか聞いてもいいですか?」

と、その質問本当にいるのか、ということを聞いてきた。
仕方がないので

「なかなか見せてくれない笑顔が可愛い」
「……はあ……」
「僕と話す時、喧嘩腰になるのはやめて欲しいと思ってる」
「あ、あの?そうではなくて……」
「それに、他の男とばかりベラベラ話すのも気に食わない。それに」
「あ、あの!お客様?」
「何」
「…………髪の色とか、肌の色とか、雰囲気……この雑誌の中に似ている方はいらっしゃいますか?」

女性店員は近くにあった女性雑誌のページをぺらぺらめくって見せてきた。
こういう雑誌は、一応世の中の情勢を知るために読んではいるが、モデルの顔が似ていていちいち覚えていられない。
彼女に雰囲気が似ているモデルを選べと言われても……。

「彼女はここまでガリガリじゃない。もっと健康的だ」
「そうではなくて」
「ああ、でもこのモデルの髪型は似合うかもしれない」

願わくば、僕があのふわふわの髪に触って、この髪型を作ってみたい。

「ああ、それにこの場所へは行ってみたいな」

写真に写っているテーマパークに連れて行ったら彼女はどんな反応をするだろうか。
喜んでくれるだろうか。

「あの……お客様……」

気がつけば、女性店員が1着、手に持っていた。

「よろしければ、これ1点ものの特別な洋服でございます。お値段は……お高めになりますが……もうこちらでいいんじゃないですか?」

その服は、ぱっと見た感じ可愛さと綺麗さが融合されたような服で……ほんの少し脱がせたいと思わせるようなデザインをしていた。
それに1点もの、ということは貴重なものということ。
それであれば、彼女も受け取ってくれるかもしれない。
値段についてはこの際もう、どうでもいい。

「それでお願いします」

値段は10万円程度。
これくらいなら許容範囲だろう。
次は、この服を彼女に着せたら今度はジャケットも選びに連れて行こう。
それから……。

「お客様」

僕の論理的な考えを切り裂くように、また女性店員が割り込んで入ってくる。

「何」

僕が聞くと、女性店員は

「この服ですが……フリマショップでも十分売れると思いますので」

と言ってきた。
何故そんなことを言ってきたのかは分からないが、彼女にそんなことを伝えた日には、出されかねないので、僕の胸に止めていくことに決めた。

そんなことよりも。
あー早くこの服を着た彼女が見たい。
どう言えば彼女は受け取ってくれるだろうか。
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