エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~
この日、平日午前中の事務所はとても平和だった。

「芽衣子、俺は昼飯に行くけど、どうするんだ?」

間もなく昼休みという頃、兄から声をかけられ私は顔をあげた。
墨田さんは今日休み。父は国会、野間さんは同行だ。
二世の兄も本来は同行すべきなんだけれど、どうも事務方の作業が終わらず、最近は事務所に詰めていることが多い。父曰くこれも勉強だそうだ。

そんなわけで今日は兄妹ふたりきりのオフィスとなっていた。兄は面倒くさい人だけど、別に兄妹仲が悪いわけではない。兄が苛立っているときはたいてい婚約者の凛(りん)さんと上手くいっていないときなので、今日もおそらくはその愚痴を言いたいのだろう。

「そこのイタリアン、奢ってやるよ」
「素直に一緒に行こうって誘えばいいのに。そういう態度だから凛さんと喧嘩になるんじゃないの?」
「凛は関係ない。だいたい、俺は彼女に対しては誠意ある態度しか見せていないから問題ない」
「妹にも誠意ある態度を見せてほしいものだわ。猫被ってるから、ストレスで苛々するのよ、兄さんは」
「口の減らない妹だな」

ともかく、兄は話がしたい様子なので一緒に議員会館を出る。
近くのホテルまで歩き、一階のイタリアンレストランへ。テラス席もある素敵なお店だけど、二月半ばではちょっと寒いし風が強いので店内の席にした。

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