エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~
くっつけた額を離し、駿太郎さんは普段通りの表情で私の顔を見つめた。

「うん、熱はもうないね。でも、無理は駄目だよ。それに共働きなんだから、家事は分業って約束しただろう?」
「え、っと、はい。そうね、そうします。無理しません」

漫画の中の王子様みたいにナチュラルな接触。駿太郎さんは熱を測っただけで、私ひとりが無駄にドキドキしてしまった。初夜も終えているし、別に恥ずかしいこともないはずなのに、やっぱり急に近づかれると心拍数が上がってしまう。

「それじゃあ、行ってくるよ」

ひかえめに口の端を上げ、彼は玄関を出て行った。ドアが閉まる。
私はほーっとため息をついて、まだトクトク鳴る胸に手を当てながらリビングに戻った。
駿太郎さんはあまり表情豊かな方ではない。言葉数も少なくて、何を考えているのかわからないことも多い。
だけど、こんな一瞬には度々ドキドキさせられてしまう。おそらく、本人は狙ってやっているのではなく、真面目な心根で妻に接してくれているだけなのだろう。
それに彼が思いやりのある人なのは充分わかっている。結婚式から一週間、体調不良で職場と新居を行ったり来たりが精一杯だった私に、お弁当を買ってきてくれ、洗濯物や掃除を率先してこなしてくれた。
謝れば、共働き夫婦はどちらも同じだけ家事をやるべきだよ、と理想的な言葉をくれる。
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