エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~
妊娠がわかってから二週間が経った。なんとなく身体がだるい。そんな朝が続いている。
妊娠は八週目の半ばで、お腹の赤ちゃんはまだお豆みたいなサイズだろうけれど、私の身体には明らかに変化がある。胃のあたりがムカムカするような感覚があるのだ。
朝ごはんは食パンを半分で精一杯。昼頃になると体調が回復してくるのだけど、これもつわりの一種かしら。イメージでは四六時中げえげえ吐いているものだと思っていた。まだラクな方なのかな、なんて考えつつ、私は今日も父の事務所に出勤する。

「芽衣子、おはよう」

元気な声で挨拶をしてくるのは父だ。ここでは一応円山先生と呼んでいる。
今日は公設秘書の野間さんと一緒に事務所に顔を出している。通常国会の会期中だし、党本部や委員会の仕事でほとんど事務所に来ない日もあるんだけれど。

「ぼうっとしているぞ。なんだなんだ、駿太郎くんと喧嘩でもしたか?」

兄のデリカシーの無さは父譲りだなと思う。よくこれで政治家なんて商売をやっていられるものだ。祖父はそのあたりは細やかで、気配りとカリスマ性で地元では絶大な支持を集めていた。父も兄も、亡き祖父を見習ってほしい。

「仲良くしてます。ちょっと貧血気味なだけです」

まだ妊娠していると、父には報告していない。なにしろ、私が妊娠出産となれば初孫のためにお祭り騒ぎでパーティーくらい開いてしまいそうだもの。兄が未婚だから、ゆくゆくは跡継ぎに、なんて言いだしかねない。そうなると、兄と婚約者も結婚を急がねばならず……。

ともかく、実父とはいえ安定期に近づくまで黙っておきたい相手だ。母も兄も、父に筒抜けになってしまいそうなので言えない。
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