エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~
駿太郎さんは大学生だろうか。まだ幼さの残る彼は青いシャツを着て、ハーフパンツをはいている。寄り添う女性は水着にカーディガンとパレオ姿だ。
場所は海辺で、国内ではなさそうだ。数枚ある写真に写る他の人物は日本人がいない。ハワイやサイパンの雰囲気が近そうだ。

どの写真も、ふたりとも楽しそうに笑っている。私は駿太郎さんがこんなふうに笑うところすら見たことがない。
一枚の写真、彼女がローマ字のロゴ風バッグチャームをかごバッグにつけているのを見つけた。
『MAMI』
マミ……万美……。やはりこの女性が宮間万美なのだろう。

「一緒に海外に行くほど仲が良いんだ」

そして、結婚した後も連絡を取り続けている……。
手帳はそれ以上開くことなく閉じた。デスクの上に置くと、掃除機を片付ける。
何も考えられなくなり、脱力したようにベッドに戻った。目を閉じる。

人はショックが大きいと涙も出ないのだと、こんなときにわかった。駿太郎さんには愛人がいる。ほぼ確定で。
お腹の赤ちゃんとわたしはどうしたらいいのだろう。
食事もとらず水も飲まず、すべてを考えないように滾々と眠り続けた。



「芽衣子……大丈夫?」

優しい声で私は眠りから覚醒した。目を開けると、私を覗き込んでいる駿太郎さんの姿。

「駿太郎さん……私、眠ってしまって」
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