エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~
鉄二が顔をあげたタイミングで、テーブルに置いた彼のスマホが振動し始めた。表示に『凛』と出ている。これが婚約者だろうか。
「凛? どうしたんだい?」
鉄二が一転おだやかで男前な声で電話に出た。その豹変ぶりに俺は少々驚く。今までのほろ酔いもどこへやら、しゃきっとした笑顔は支援者と握手する政治家そのもの。
「そうか、すまない。仕事の相手と飲んでいるんだ……え? そうなんだ。でもね」
何事か会話し、鉄二は電話を切った。
「悪い。例の婚約者から呼び出しだ。親戚が来日してて、俺に会いたがってるとか。行かなきゃならないわ」
「ああ、それは行った方がいい」
「まったく本当に我儘で困っちゃうよ」
鉄二は苦笑いし、約束通りバルの会計を払い、タクシーを拾って行ってしまった。
正味一時間ほどの会だったが、夕食にはなったし、義兄とのコミュニケーションにもなった。
終わりが早かったので、酔い覚ましと散歩を兼ねて家まで歩くことにした。自宅マンションのある乃木坂まで一時間もかからない。
我儘、か。芽衣子と俺は我儘を言い合ったこともない。お互い気遣い、居心地のいい環境を作ってきたけれど、もっとぶつかった方がいいのだろうか。喧嘩とまではいかなくても、自分の気持ちは素直に表現すべきだろうか。
「凛? どうしたんだい?」
鉄二が一転おだやかで男前な声で電話に出た。その豹変ぶりに俺は少々驚く。今までのほろ酔いもどこへやら、しゃきっとした笑顔は支援者と握手する政治家そのもの。
「そうか、すまない。仕事の相手と飲んでいるんだ……え? そうなんだ。でもね」
何事か会話し、鉄二は電話を切った。
「悪い。例の婚約者から呼び出しだ。親戚が来日してて、俺に会いたがってるとか。行かなきゃならないわ」
「ああ、それは行った方がいい」
「まったく本当に我儘で困っちゃうよ」
鉄二は苦笑いし、約束通りバルの会計を払い、タクシーを拾って行ってしまった。
正味一時間ほどの会だったが、夕食にはなったし、義兄とのコミュニケーションにもなった。
終わりが早かったので、酔い覚ましと散歩を兼ねて家まで歩くことにした。自宅マンションのある乃木坂まで一時間もかからない。
我儘、か。芽衣子と俺は我儘を言い合ったこともない。お互い気遣い、居心地のいい環境を作ってきたけれど、もっとぶつかった方がいいのだろうか。喧嘩とまではいかなくても、自分の気持ちは素直に表現すべきだろうか。