エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~
「そ。その後、党本部で会議の予定。野間(のま)さんが同行してる」

野間さんというのが父の公設秘書だ。この東京事務所には公設秘書の野間さん、私設秘書の兄、事務職員の私と、もうひとり事務を務める年配の女性、墨田(すみだ)さんの四人しかいない。北関東の父の選挙区の事務所はもっと大所帯だけれど、東京事務所はこの人数。議員事務所って、実は結構少人数で回しているのだ。

「おはようございます。鉄二さん、芽衣子さん」

墨田さんも出勤してきて、本日の業務スタートだ。今日は季節の挨拶状を支援者の方々にお送りしてしまわないと。

「芽衣子さん、体調は大丈夫?」
「もうすっかりいいんです。ご心配おかけしました、墨田さん」

隣で備品整理をしている墨田さんが心配そうに尋ねてくる。ふっくらとした手足の優しげな墨ださんは、この事務所では一番の古株だ。先週は休みがちで墨田さんにも迷惑をかけてしまった。

「芽衣子はそんなものですよ」

兄が資料作成でパソコンを見つめたまま、口を挟んでくる。

「引越しに結婚式と、連続したものな。芽衣子は昔からおっとりでマイペースだから、ペースや環境が大きく崩れると熱を出すんです」
「人を虚弱みたいに言わないで」

私は唇を尖らせ、兄に反論した。墨田さんが執り成すように言ってくれる。

「まあまあ、みんなそんなものですよ。特にお嫁入りなんて、人生の一大事なんだから。疲れて当然。芽衣子さんが、元気になってくれたらなら私は安心ですよ」
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