エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~
その時だ。ローテーブルの上の俺のスマホが振動を始めた。
それを見た芽衣子の目に見る間に涙の粒が盛り上がる。ぽろぽろっと勢いよく頬を滑り落ちた雫が俺たちの手の甲で弾けた。

「芽衣子?」
「それじゃあ、教えてください。その女性は誰ですか?」

芽衣子が震える声で尋ねる。優しかった目が、今は鬼気迫る様子で俺を射貫く。

「結婚してからもずっと連絡を取り合う『宮間万美』という女性は誰ですか? やはりその女性が好きなんですか? 私では駿太郎さんの一番になれませんか?」

俺は芽衣子の肩を掴み、真剣な顔を見つめ返した。

「えっと、……宮間万美は……俺の母です」

間の抜けた返事に、芽衣子が大きな目をさらに零れ落ちんばかりに見開いた。

「ハハ……お母さん……?」
「ああ、母親。高校の時に父と離婚して、今は恋人とハワイに移住しているんだ。父とは絶縁状態だから、結婚式にも呼べなかった。名前は……きみに話したことはなかったね……」

答えながら、芽衣子の涙と過去の態度に心当たりがじわじわと湧いてくる。もしかして、長く誤解をさせていたのではなかろうか。

「しょっちゅう、時差を考えないで連絡をしてくるんだ。今も、向こうは深夜だろうから、大方恋人と喧嘩して話を聞いてほしくて電話をしてきたんだと……。芽衣子、きみ、スマホの通知で名前を見たんだね」

芽衣子がこくりと頷く。
そうだ。俺は母親だからと何も気にせず通知をオンにしていたけれど、彼女からしてみれば知らない女から夫のスマホに連絡があるように見えていたのだ。しかも、深夜などに見つければ、何かいかがわしい関係なのかと勘ぐられても仕方ない。
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