エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~
「そうだね。そろそろ芽衣子を座らせたいし」

優し気な目で見下ろしてくる彼にくすぐったいような気持ちになる。その向こうで兄が思いだしかのように言った。

「ってうか芽衣子、腹重そうだな」

今の今まで妹の妊娠はすっかり忘れていたといった雰囲気だった。そういうところよ、婚約者に愛想を尽かされたのは。

混む前にお店に入れたので、ランチは待たずに席につけた。ちょうどお腹も張ってきタイミングだったのでよかった。

「事務所は九月半ばから産休だろ。復帰はどうする?」

注文を終えると兄が尋ねてくる。

「来春には時短で事務所勤務に戻るつもりよ。それまでは墨田さんが一手に引き受けてくれるって」

私の産休育休中は、ベテランの墨田さんが庶務全般をひとりでこなしてくれるそうだ。メンバーの少ない事務所だし、他に人を雇ってもらってもいいと言ったのだけれど、そうすると私が戻ってきづらくなるのではと墨田さんが心配し、引き受けてくれた。

「保育園に入れなかったら、待機中はお母さんが面倒を見てくれるって言うし。そうしたら、最初は週三日くらいから職場復帰にさせてもらうつもり」
「まあ、母さんは孫の面倒見たがるしな。駿太郎はそれでいいの? 妻には家にいて子どもを見ていてほしいとか、希望ないのか?」

駿太郎さんは緩く首を左右に振る。

「男女で役割決めをする必要はないからね。うちも職場全体が育児参加に積極的だし、俺も時短勤務にできる日はするつもりだよ」
「は~、理解ある旦那だな。俺もそういうアピールをすればいいのか?」

間の抜けたことをいう兄。アピールじゃダメでしょ、アピールじゃ。
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