エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~
午後ももう少し買い物に回って、兄とは施設内で別れた。ふたりで暑い中メトロに乗ってマンションを目指す。
兄は送ろうかと言ってくれたけど、せっかく駿太郎さんとデートなので固辞した。赤ちゃんが出てきたら、ふたりきりの時間は終わりだもの。

とはいえ、さすがに私もくたびれていた。出産まであと二ヶ月。もっともっと身体が重たくなるのかと思うと、ちょっと怖い。

メトロのある地下から地上に出て、細い道に入るとすぐにマンションが見える。セミの声がわんわんとこだまする木陰で、わずかに立ちくらみを感じた。すぐに気づいた駿太郎さんが抱きとめてくれる。

「駿太郎さん、ありがと……」

言う声を封じるようにキスをされた。

「ん……」

帽子の陰に隠れたキスは一瞬だった。唇が離れ、驚いて見つめ返すと、困ったように微笑む彼と目が合った。

「不意打ちでごめん。デート、ほとんど鉄二が一緒だったから……その……」
「キス……したかったんですか?」
「なんか、ごめん。変だよな。家ではずっと一緒だっていうのに」

つい、と気まずげに言う駿太郎さんが愛おしくて、つい口元も目元も緩んでしまう。こんな可愛いことをしてくれる人だったんだ。

「この後は明日駿太郎さんが出勤まで一緒ですよ」
「ああ、そうだよね。本当に子どもっぽくて、ごめん」
「いいえ。嬉しいです。でも、外でキスは恥ずかしいので、おうちの中でしませんか?」
「部屋に戻ったら、もう一回してもいいってこと?」

生真面目に聞き返してくる駿太郎さんの頬が赤いのは暑さのせいだけじゃないと思う。

「はい、部屋の中なら何度でも」

答える私の声も甘くなってしまう。私たちは見つめ合って、それから手を繋いで自宅に戻った。それから、たっぷりと甘いキスを交わしたのだった。

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