エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~
搬送されたのは都心ど真ん中の大きな病院だ。ここからもタクシーで十分くらいだろう。
母に連絡をしたところまでは私も落ち着いていた。なにしろ、母を驚かせたくなかった。娘だけど、事務所の職員として冷静に連絡をしないと。
それから念のため、兄の元婚約者の凛さんにメッセージを入れておく。一度会ったとき、連絡先の交換をしておいてよかった。なにしろ、父と兄の容体はまだわからない。このまま会えなくなるなんてことも……。

そこまで考えて、押し込めていた恐怖がぶわっと膨れ上がるのを感じた。
父と兄は大丈夫なんだろうか。後ろから追突されたというけれど、父は必ず後部座席に座る。

「仕度しなきゃ」

夕食の材料はまとめて冷蔵庫に入れてしまい、お財布とスマホをバッグに入れる。
その時点で、駿太郎さんにも連絡をすることに思い至った。出かけるって伝えないと、父と兄のことを言わないと。バッグをテーブルに置き、スマホを取り出そうとしたときだ。

ずきんとお腹が痛んだ。
お腹の奥から鋭い衝撃がきたといえばいいだろうか。感じたことのない痛みの後に、お腹がぎゅうっと強く張る感覚を覚える。

「え、なにこれ……」

まさか陣痛だろうか。それとも何か違う症状が起こっているのか。
お腹を触るけれど、手で触ってもわかるくらい固く張ったお腹に、胎動は感じない。赤ちゃんが動く感覚がわからない。
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