エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~
父と兄のこと、お腹の強い痛みと張り。焦りと不安が心を占めてくる。
とにかく駿太郎さんに連絡をしなきゃ。床に座り込んでスマホを取り出した。
鼓動がやけに響き、言い様のない恐怖感で涙がにじむ。メッセージを打つ指が震える。

そのとき、玄関のドアが開く音がした。
弾かれたように顔をあげると、リビングに入ってくる駿太郎さんがいた。

「芽衣子、どうした?」

床に座り込んで涙ぐんでいる私を見て、駿太郎さんがさっと青ざめ駆け寄ってくる。片膝をつき、私の背に手を添えた。私は駿太郎さんにすがりつくように訴えた。

「父と兄が事故に……」
「え!?」
「病院にいかなきゃって思ったら……おなかが急に痛くなって」

駿太郎さんはすぐさまスマホを取り出し、タクシーの配車を手配してくれた。それから、棚から私の保険証と母子手帳の入ったケースを持ってきてバッグに入れる。

「芽衣子、病院に行くよ。きみと赤ちゃんの」

駿太郎さんは怖いくらい真剣な顔で私を見つめていた。

「父と、兄が……」
「それは、俺が病院や秘書さんと連絡を取り合う。きみと赤ちゃんの状態を診てもらう方が先だ」

だけど、父と兄は容体次第ではもう会えなくなるかもしれないのだ。一刻も早く病院に駆けつけなければならない。「でも」と納得していない私の両肩を駿太郎さんが強く掴んだ。
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