エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~
「芽衣子! 俺はきみと赤ん坊を優先する。それは譲らない」
「駿太郎さん……」

駿太郎さんは顔をくしゃっと苦しげにゆがめ、絞り出すように言った。

「きみと赤ん坊に何かあったら、俺は生きていけない。円山先生と鉄二にも合わせる顔がない。頼むから、俺の言うことに従ってくれ」

駿太郎さんのこんな姿、初めて見たかもしれない。おずおずと頷くと、駿太郎さんが私を横抱きに抱き上げた。

「歩かせるのは不安だから、こうさせて。玄関でサンダルは履いてもらうから」
「駿太郎さん、私、歩くくらい」
「赤ちゃんの状態がわからないだろ? 俺が不安だからタクシーに乗るまで。頼む」

私は駿太郎さんに抱きかかえられ、マンションの外に到着していたタクシーに乗り込んだ。かかりつけの産婦人科に行ってもらう。

病院では念のため車いすで移動し、すぐに診察室へ通された。
内診や腹部のエコーなどを済ませる間、駿太郎さんは可能な限り近くにいてくれた。私のスマホを持ち、父と兄の方の連絡を待ちながら。

諸々の検査を終え、診察室で医師と向かい合う。医師の様子が切迫していないことと、強いお腹の張りがわずかにラクになっていることから、私の気持ちにはわずかながら余裕が生まれ始めていた。

「お産はまだ先になりそうですね。今日のところは異常なしですよ」

かかりつけの女医はほがらかにそう言った。
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