エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~


***


「芽衣子、お見合いをしてみないか?」

父がそう提案してきたのは今から半年と少し前、夏の盛りの頃だった。

「近頃なかなかいない好青年と出会ってね」

私は二十四歳、お見合いの話は初めてだった。お相手が環境省の官僚だと聞いて、少し驚いたことは覚えている。抜け目ない父のことだ。自身の地盤は兄に継がせ、私は支援者たちとのパイプ作りも兼ねて、大企業の社長や老舗の御曹司に嫁がせるものだと思っていた。省庁の官僚となると、政治的な繋がりを求めての結婚ではない。父本人がそうとうその男性を気に入ったのだろう。

「俺の大学時代の経済学部の同期だよ。現役だから同い年。優秀な男だし、結構なイケメンだから、おまえにはもったいないかもしれないな」

兄が偉そうに言った。兄と同級生ということは二十九歳になる年齢。私が秋に二十五歳になるから、四つ上だ。兄はこう見えて国内最高学府で学んでいる。官僚には珍しくないけれど、そのお相手も頭がいいのだとぼんやり思った。
父は参議院内の常任委員会で環境委員会に属していて、省での実務中にその好青年と出会ったらしい。兄が同級生で顔見知りだったこともあり、とんとん拍子に話しは進み、父は私とお見合いさせることを決めてしまったのだった。

そう、父は質問口調だったけれど、このお見合いに私の拒否権はほぼない。父は圧制者というわけではないし、人の親としては充分に娘に甘いものの、「こう」と決めたらまっすぐなところがある。おそらくお見合いは父の中では決定で、結婚式のスケジュールや招待客まで頭の中でできあがっているに違いない。
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