【望まない悪夢】

喉が酷く痛み、咳き込むと少量の血を吐いた。ここ数ヶ月ほど全く喋らなかったのに、無理やり声を出したから傷ついたのだろう。

【もう選択肢は3つしか無いの。お腹の子供を堕胎するか、このまま父親の子供を産んで育てるか、産んだ後に里子に出すか…これはあなたが決める事よ】

私はしばらく考えて、そしてボードにペンで答えを書いた。

【(私は…この子を産む。だけれど、産んで里子に出します。今の私に育てるなんて出来ないし…そのうち手にかけてしまうかもしれない。父親にレ○プされて出来た子だってこの子が知ったら……私はこの子の人生を奪いたくない)】

ボードの文章を読んだ先生は、私を優しく抱きしめた。まるで母親が愛しい我が子にハグをするように。

先生は白衣のポケットからメモ帳を取り出し、ボールペンでシャシャっと文字を書いた。

【分かったわ、貴方がそう決めたのなら…私はそのようにする。前にカウンセリングに来た時に、葉月ちゃんが今までどれだけ怖くて、辛くて、痛くて、苦しい思いをしてきたのか話をしてくれたから…貴方の味方になれるし助けてあげられるわ】

【(過去の事は無くならない、でも…それを乗り越えるしかないもの。もう逃げないって決めたから)】

それから数ヶ月後の冬、私は元気な女の子を産んだ。まだ10代という事もあり、普通のお産だと身体に大きな負担がかかるらしく、帝王切開でのお産になった。

(おぎゃぁ！おぎゃぁ！)

大きな産声をあげる我が子を見ていると、心が締め付けられるように痛む。これからこの子を里子に出す…「どうか、優しい人に育てられますように」と願いを込めて見送った。

「(最後くらい、笑顔で見送ってあげられたら良かったのになぁ…)」

さっきまで同じベッドの横に寝ていた子供、私の子はもういない。

数週間後、私は特に身体に異常は見られず退院した。その頃には毎日のリハビリのおかげで声が戻っていた。

自宅に帰り、鞄の中から見送る前に撮影してもらった我が子の写真を取り出す。

「こんなお母さんでごめんね…さようなら、雪葉」

ＥＮＤ