灼けるような恋の先。
「ってか、婚姻届は?」
このクラブが空いてるってことは夜だろうし、私が倒れたからせっかくの休みに出せなかったんじゃ…。
そんな私の言葉に少しむくれたようにポケットから髪を出す樹。
「一応書いたけど、菫も書かねぇと出せねーから出てない」
「ごめん、私が書いて出しとくよ」
「いや、今日そんなに忙しくねーし書いて夜間で出しに行こうぜ」
「あぁ、それもそうか」
樹の提案に納得しながら、意外と綺麗な字で半分書かれた婚姻届のもう半分を書く。
これで本当に後戻りは出来ないんだ。
元々戻るとこなんてないけど。
なんて気持ちでペンを進めたところでふとある疑問が降ってきた。
「樹、両親は?
私は絶縁したみたいなもんだからいいけど、そっちは?」
樹が私の過去をほとんど知らないように私も樹のことをほとんど知らないからそう聞くと
少し嫌そうな顔をしたあと口を開く。
「両親は○○会社の社長。
代々続く社長家系の長男だったけど嫌で飛び出したから菫と同じく絶縁状態だ。
だからなんにも心配するこたねーよ、俺らは俺ら2人だけだ」
両親の話をするのが心底嫌そうな樹にそれ以上は聞かず、似たような経緯に笑った。
似たもの同士巡り合わさったってわけか。
「よし、書いたぞ」
「じゃ保証人はその辺のやつに書いてもらって出しに行くぞ」
「うん」
人生で初めて書いた婚姻届を見てなんとも言えない気持ちの私も立ち上がり役所に行こうと踏み出したところで
クラブの方から何やら騒がしい音が聞こえてきた。