灼けるような恋の先。




「俺の親は代々続く社長って言っただろ?
あれで小さい時からプレッシャーやばくて、中学卒業と同時に家を飛び出した。
んでふらふらしてたらこのクラブの前の経営者に出会って、めっちゃいい人で良くしてもらった。
でもその人が物騒な輩に殺されてさ。
ここは俺が引き継いで、もう二度と大切な人を殺されたりしないほど俺が強くなろうって感じで今だな。」






淡々と何でもないことのように話す樹だけど、その目はどこか悲しそうで恩人を失ってしまった悲しみは測りきれない。




それに確かに育ちは悪くなさそうではある。



箸の持ち方、ご飯の食べ方、字の綺麗さ。






「だから俺も大事なやつは二度と手放したくねぇんだ」






そう言って私の頬を撫でてキスをする樹。


この人はこんなに優しい表情もできるんだな。






「菫は?
事件のことはある程度知ってっから無理には話さなくていい」






事件のことで苦しむのを知っているからかそんな気遣いをしてくれる樹に微笑んで頷いた。






「私と亡くなった灯と今日来た晄は仲良くて、単純に親友同士で高校の時からシェアハウスしてた。
本当に最初は恋愛感情なんてなかったけど、加害者の楓ちゃんが転校してきて色々あって灯と付き合ってるって嘘ついたんだ。
その時、本当に急に灯のことを異性として意識して好きになった」






当時のことを思い出しながら、懐かしくて暖かい日々にもう二度と戻れないのが辛い。






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