灼けるような恋の先。
なんで…。
「なんで敬語なんだよ…バカ」
謎の敬語に笑いがこぼれつつ、突然いなくなってしまった喪失感で胸の中がぽっかり空いてしまったような感覚に陥った。
「樹…」
苦しい。
でもこれは別れを私が選んだ時点できっと決まっていたことで、樹は私より苦しいのかもしれない。
そう思うと泣く資格なんてないのに、私の目からは涙がボロボロとこぼれ落ちてくる。
「樹…どうして…」
どうして何も言わずに居なくなったりするの。
自分が別れを切り出しておいてそんなことを思う私はわがままで、昨日の行為の余韻がまだ身体に残ってるのにもうその相手はどこにいるのかも分からないなんて悲しすぎる。
いやまだここで絶望するのは早すぎる。
もしかしたら家に帰ったらいるかもしれない、まだ間に合うかもしれない。
さよならくらい言いたくて私は手紙とカバンを取って、旅館を飛び出した。
また大切な人が私の前からいなくなるなんてどうやっても阻止したいんだ。