灼けるような恋の先。




旅館を飛び出して急いで電車やタクシーで家へと帰ってきた私は鍵を開けて中を探し回る。






「樹!いないの!?」






何度呼びかけて、隠れるような場所も探したけどいない。




婚姻届も樹が出しに行ったからてっきり出したと思ってたのに出してなかったなんて…。




なんとも言えない喪失感に駆られながら、私は次にクラブの方へと向かう。






「ハルくん!」






バタバタと営業開始前の準備時間に駆け込む私にハルくんは驚いたように目を見開いた。






「ど、どうしたんですか?」



「樹は!?」






さすがに職場に何も無くいなくなることは無いだろう。


そういう思いでハルくんにたずねると、ハルくんはまたもや驚いた顔をする。






「樹さんなら昨日俺を後任にして退職されてますよ?
その時に菫さんも退職ってことにしてくれって言われたので知ってるかと思ってたんですが…」



「そんな…」






じゃあ本当にいないんだ…。



急に樹が目の前から消えたのが現実味を帯びて、私は目から涙がこぼれ落ちてきた。






「っ…」



「す、菫さん…大丈夫ですか…?」



「だ、大丈夫…ごめん」






突然泣き出した私にオロオロしてしまうハルくんに謝って急いで涙を拭う。






「菫さん、これからどうするんですか?」



「大丈夫。今までありがとう」






樹が退職したなら私もいない方がいい。



きっとそうして欲しいから私も退職にしたんだろう。




ハルくんにお礼を言ってとりあえずクラブを出る私。






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