死にたがり屋は恋に堕ちる
「コイツは大学時代の同期生。オレと同じ演劇サークルで、ピアノを弾いていたんだ」

 兄貴はそう言って私に紹介し、仲良さそうに探偵の肩を抱いた。

「三年前、俺が舞台で『Fall in love ~夕焼け紅葉~』を弾いたときに、楓は立って拍手までして喜んでくれてたよな。だから俺、楓を慰めようとしてピアノであの曲を弾いたんだ」

 私にそう言う探偵。

「……えっ、あの舞台でピアノを弾いていたのは、あなただったの?」
「そうだよ。あん時の俺はツバ広のハット被ってて、顔が見えなかっただろうけどな」

 私、あの憧れの人にやっと会えたんだ……! どうしよう、嬉しすぎるよ。

「死神の仮装は名案だったろ?」
「いや、愚案だろ……作戦失敗だよ」

 兄貴が嬉々として聞き、探偵はため息をついて答える。

「兄貴、何で死神に仮装させたの? 私を脅すなら他にもあるでしょ」
「そりゃ他にも仮装衣装はあったけど……楓は死神をすごく恐れてるじゃないか」
「え?」
「ほら、アニメで」

 そういえば、子供の頃に見ていたアニメに出てくる死神を私は怖がっていたっけ。でも昔の事だ。
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