死にたがり屋は恋に堕ちる
「そこにいるでしょ! 黒い翼が生えた奴が!」

 泥棒と思われる男を指差す。

「どこにもいないじゃない」
「え……」

 お母さんには見えないの? 

「何寝ぼけたこと言ってんのよ、楓。顔洗ってきなさい」

 呆れた様子でお母さんは部屋を出て行った。
 ……お母さんが嘘をついてるとは思えない。なら、見えないってどういうことなの?

「残念だったな、死神の姿は、普通の人間には見えねぇんだよ」

 魔法のような出来事なんて起きるわけないし、子供じゃないんだからこんなこと簡単に信じたくないのに。

「マジで死神なの……?」
「さっきからそう言ってるだろ」

 嘘でしょ……こんなことってあるんだ……。

 私は死神をまじまじと眺めた。その容姿を一言で表すなら、美青年。
 年齢は、兄貴と同じ二十四歳くらいだろうか。肌は色白で、頬にも唇にも血色感がない。
 背が高く大きな翼も生えているので、六畳半の部屋がさらに狭く感じる。

「何で私には死神が見えるの? 地獄へ連れて行くってどうして?」
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