死にたがり屋は恋に堕ちる
 あ、私、この曲知ってる。三年前、兄貴が所属していた演劇サークルの舞台を見に行ったときに知った『Fall in love ~夕焼け紅葉~』っていう曲だ。

 ……それにしても死神め、ピアノを八年間習ってた私や兄貴よりも断然上手いじゃないの。荒々しい性格してると思ったけど、意外な一面があるのね。これがギャップってやつか。

 私はこの曲をここまで上手く弾ける人間を、演劇サークルの舞台で演奏していたあのお兄さんしか知らない。難易度が高いこの曲を得意げに弾くあのお兄さんに、私はずっとずっと憧れていた。

 今、どこで何をしてるんだろうなぁ。また会いたいな……。

 曲を弾き終えた死神に、私は拍手もせずに尋ねた。

「人間界の曲、なんで知ってるの?」

 死神は一瞬目を泳がせこう答える。

「…………人間に教えて貰った」
「その人間って誰――」
「お前は、何故そんなに死を簡単に受け入れるんだ?」

 私の質問を遮って、死神はそう聞いてきた。

「そ、それは」

 私は言いよどむ。
 地獄へ連れて行かれないために、ちゃんと話した方がいいよね。そう思った私は死神に、感情をぶつけるようにして死にたい訳を語った。
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