ながい、愛。
「ただいま…」
誰もいないのは分かっているけれど、昔からの癖で呟く言葉。
ここ数日の激務を漸く終えて、心も頭もバラバラになりそうなのを感じると、気持ちがとても沈んで、堪らなくなる。
不意をついて、孤独を感じるこの時間を埋めてくれるのは、この世の中でただ一人。
だけど…。
今、愛する存在は此処にはいない。
…俺はガシガシと猫っ毛の髪を乱して、ネクタイをしゅるりと外すと、スーツの上着も脱ぐことなく、ベッドの上にどさりと倒れ込んだ。
きっと、疲れ過ぎて脳が麻痺しているんだ。
じゃなければ、こんなにも寂しさに飲み込まれたりしない。
彼女の残像を追い掛けて、そこに縋るような…そんなことにはならないはず、だから。
どれくらいそうしていただろうか?
ぐったりと帰ってきたままの体勢でぐるぐると色んなことを思っていた。
すると、おもむろに部屋のインターフォンが、無音の部屋に無機質に鳴り響く。
ピーンポーン…
ピーンポーン…
疲れてるんだから、止めてくれ。
どうせ、新聞か何かの勧誘か、宅配業者の部屋ナンバーの間違いだろう…。
ピーンポーン…
ピーンポーン…
ピーンポーン…
少しだけ間をおいて、鳴り止んだかと思ったインターフォンが、また鳴り響く。
今度は少し早めのペースで…。
「あー…っ!もう!出ればいいんだろ!出れば!」
俺は半ばキレ気味にベッドを蹴るようにして起き上がり、下の階の住民の迷惑なんて気にせず(最も防音性ばっちりのマンションなんだが…)、ズカズカとドアの方まで向かうと、画面も見ずに、低くていかにも不機嫌ですという声を出した。
「はい?」
「こんばんは」
「………、は…?」
「恵夢?」
「…早貴?…え…っ?!早貴?!」
「えへへー…来ちゃった。びっくりした?」
漸く見たインターフォンの画面には、茶目っ気たっぷりな満面の笑みの彼女…早貴が少し大きめのバッグを片手に立っていた。
俺は慌てて、ロックを解除して、部屋に招き入れる。