【番外編集】ロート・ブルーメ〜赤花〜

「断られたらどうしようかと思った」

「断るわけないよ……ずっと一緒にいるって言ったでしょう?」

 少し情けない感じに微笑む紅夜に、あたしはハッキリと告げる。


「それでも、まだ早いとか言って断られる可能性はあったからな」

 その言葉には「……確かに」と頷いてしまう。


 思えば、あたし達は二年前に一度会っているとはいえその時間は一時間あるかどうか。

 その後再会したのは、ほんのひと月ほど前だ。


 お互いをよく知るにはとても短い時間。

 多分、まだまだ知らないこともある。


 将来を誓い合うには早すぎると誰もが言うだろう。


 でも、あたしは大丈夫だと思ったんだ。


 これからもともに過ごすことで、幻滅するようなこともあるかもしれない。

 ケンカをして、嫌いなんて言ってしまうこともあるかもしれない。


 でも、幻滅してもそれが紅夜なんだって受け入れられると思った。
 ケンカをしても、嫌いだと思っても、根底に……奥底にある想いは変わらない。


 多分、愛してるって、そういうことなんだと思う。


 まだ17歳の子供が愛なんて分かるわけがないっていう人もいるかもしれない。

 実際、あたし自身本当に分かっているとは思ってない。


 それでも、紅夜なら将来を誓っても良いと思ったから……。


「……でも、早くても……プロポーズ、嬉しかったよ?」


 ずっと一緒にいる。

 その誓いをするための、約束。



「……恥ずかしくもあったけど」

 でも、ちょっとだけ非難も含めた。

 だって紅夜、両親の前で言うんだもん。


「はは、美桜の父さんすごい顔してたもんな」

 面白そうに笑う紅夜に、ちょっとは反省してと思う。


 長期出張から帰って来てやっと家族団欒(だんらん)出来ると思ったら、愛娘に彼氏が出来ていたってだけでも驚きだろうに。

 叔母さん達と挨拶に来たその彼氏が目の前でプロポーズなんてしたら驚愕ものなのは当然だろう。

 あたしだってまさかプロポーズなんてされるとは思っていなかった。

 実感だって実はまだそんなに無い。

 少しずつ、滲むようにじわりと湧いて来ているところ。


「叔母さん達は止めなかったの?」

 プロポーズのときには少し諦めの眼差しをしつつあたし達を見守っていた叔母さんと隆志さん。

 少なくとも事前に話はしていたんだろう。

 じゃなきゃ絶対動揺していたと思うから。


 まあ、知らないはずのお母さんは「あらあら」と目を丸くしただけだったけど。


 驚愕するほど驚いたのはお父さんだけだ。


 驚いて、物凄く落ち込むお父さんを叔母さんが慰めてたっけ。

 お母さんは「こういう時のお父さん面倒なのよ。放置するに限るわ」なんて言ってキッチンに引っ込んでいたし。


 でも必死にお父さんを慰めてる叔母さんを見て、明らかに嫉妬したっぽい隆志さんを見れたから良かったかな。

 紅夜のためだけの結婚だと思ったけど、あの二人はあの二人なりに愛を(はぐく)んでいそうだって思ったから。


 そんな二人が紅夜を止めなかったのってなんでだろう?


 そう疑問に思って聞くと。

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