まぶたにキスして

フワッと全身が爽やかなシトラスの香りに包まれる。

っ?!

「俺の前で無理して笑うなよ」

「……っ」

灯くんの吐息まじりの少し苦しそうな声が耳元に届く。

胸の上には彼の腕。
これって……。

私を包む灯くんの腕の力がさらに強まる。

「あ、灯くん?!」

自分があの灯くんに後ろから抱きしめられているなんて夢みたいで、頭の中が一気に真っ白になる。

な、な、なんで……。

「ずっと震えてんじゃん、音桜」

「へ……」

また、大好きな彼に名前を呼んでもらえた。
自分の手のひらを見れば、灯くんの言う通り手が震えていた。

嘘……全然気付かなかった。

「怖かったよな」

灯くんのその声に、鼻の奥がツンとしてじわっと視界が滲む。

灯くんは私のことが鬱陶しかったはずなのに。

なんで今、優しくするの。
そんな優しい言葉をかけられちゃ、期待してしまうよ。

「うっ……」

とうとう一筋の涙が頬を流れてしまい、私はクルッと振り返って灯くんの胸の中で泣いた。
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