まぶたにキスして

「……いいよ、灯くんになら」

「っ!?」

緊張で震えそうな声で言えば、灯くんの目が見開いた。

「何言ってんの、音桜こそ熱あるんじゃない」

「本気だよ。灯くんならいい。……ううん。灯くんがいいの。あの日みたいに、……キ、キスして欲しいよ」

「……っ」

今まで抑えていた感情が溢れて涙で視界が滲む中、あの日、灯くんからもらった温もりを思い出す。


9年前。

小学1年生の私は当時同じクラスで隣の席だった男の子のことが好きで、ある日、彼とふたりきりになったとき思わず好きだと伝えたことがあった。

緊張とふわふわした気持ちが入り混じる、生まれて初めて自覚した恋心。

でも、彼から返ってきた言葉は予想していたものと全然違うものだった。

『俺、音桜ちゃんよりも華ちゃんのほうが好きだから』

華ちゃんと言うのは私が一番仲良くしていた友達。

その日、私は学校が終わって家に着いてからわんわん泣いた。

そんな時だった。
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