まぶたにキスして

『……音桜?』

ピンチの時に助けてくれるヒーローみたいに、灯くんが私の前に現れた。

放課後はほとんどいつもどちらかの家で遊んでいて、その日は灯くんのうちでゲームをする予定だったのに、私が一向に来ないから心配して見に来てくれたんだと思う。

『……あ、かり、くん?』

涙でぐちゃぐちゃの顔を上げて、幼なじみの名前を呼んだ。

『どうしたの。学校でなんかあった?』

2個年上、小学3年生の灯くんの体は当時の私にとって少し大きく見えて、お兄さんで。

昔から温かくて大好きだったその胸の中に思わず飛び込んだ。

『うっ、あのね、晴之くんに好きっていったらね、晴之くんは、私よりも華ちゃんのことがっ、好きだってっ、ぐっ、』

ずるずると鼻水を垂らしながら話す私の声に優しく耳を傾けて『そっか、悲しかったね』と言ってくれた灯くんが、ずっと背中を優しく撫でてくれていた。

それでもなかなか涙は止まってくれなくて。
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