まぶたにキスして

『どう、したらっ、悲しくなくなるかなっ』

ずっと胸が痛くて苦しいなか、灯くんの服をギュッと握って呟いたときだった。

『俺が止めてあげる』

灯くんのそんな優しい声が耳に届いたかと思えば、私を抱きしめていた灯くんの体がわずかに離れて、バチっと視線が絡んだ。

次の瞬間、灯くんの顔がゆっくりと近づいて。

後頭部には彼の左手がまわってそのまま頭を引き寄せられ。

何が起こっているのか考えられない間に、右まぶたに温かくて柔らかい感触が触れた。

全身が、大好きな灯くんの匂いに包まれたのと、まぶたに触れた初めての感触で、息苦しさと涙がピタッと止んだのをよく覚えている。

『灯くん、なに、したの……』

『キスした』

『……っ』

キスなんて、絵本の中に出てくる王子さまとお姫さまのするものにすぎなかった。
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