まぶたにキスして

俺が中学3年で音桜が中学に上がった時、かわいい子が入学してきたと男子のなかでは結構話題になっていた。

俺と同じ制服を着た音桜は、少し見ない間にほんの少し大人っぽくなっていて。

その姿を見たとき、彼女が遠くに行ってしまったような気がした。

先にその手を離したのは自分なくせに。
どこまでも勝手だ。

そして『サッカー部の八雲と付き合っているらしい』そんな噂が流れた。

八雲晴之。

音桜が小学生の頃好きで振られた相手だ。

俺が知らない間に、音桜には知らない人間関係ができている。

それはきっと、音桜から見た俺も同じ。

昔なら、お互いの知らないことなんてなかったのに、なんて。

自分から手放しておいてそんなことを考える、どこまでも自分勝手な自分に嫌気がさしていた。

それでも、音桜と関係をもとに戻す勇気は出なくて。

昔から好きだった男とようやく結ばれた音桜にとって、今更俺が声をかけても鬱陶しいんじゃないかって、

消極的な考え方は勝手に大きくなって。

音桜との時間は忘れようと何度も自分に言い聞かせた。
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