まぶたにキスして
それなのに、俺の通う高校に入学してきた音桜は、昔と変わらない笑顔で、いや、それはちょっと嘘。
無邪気さは変わらないけれど、その笑顔の中にはわずかに色っぽい雰囲気も含んでいて。
昔よりもいちいちドキッとさせてきてしょうがなかった。
何事もなかったみたいに人目もはばからず話しかけてくるんだから、調子が狂う。
俺に、音桜とどうにかなる資格なんてない。ずっとそう思ってきたからこそ、
いざ高校で彼女を目の前にしたとき、思わず、『ごめん、あんまり覚えてない』なんて、あんなセリフを吐いてしまった。
何度も音桜を傷つけた俺に、これ以上かまわないでほしい。
そう思っていたのに。
今、目の前に彼女がいて、俺を欲しがっているのかと思うと、泣きそうなぐらい嬉しくて。
でもこのまま触れたら、壊れるぐらい抱きしめそう。
だから早く、俺の前から消えて欲しいのに。
今、横になったまま俺をまっすぐ見つめている彼女が、今までの俺のそんな我慢を水の泡にしようとするから。
ムカつくのに、心臓の鼓動はこれでもかってぐらい激しく鳴り続けている。
これ以上、煽らないで。