まぶたにキスして
「日坂さんっ」
クラスでも比較的大人しい道永さんが、声を震わせて私の名前を呼ぶ。
彼から彼女をガードするように手を広げたまま、振り返って道永さんの顔を見れば、その瞳は潤んでいて今にも涙が溢れ落ちてしまいそう。
「もう大丈夫だから、早く走って逃げて!」
「で、でもっ」
「いいからっ!」
私の声に、道永さんは下唇を噛んでから「ありがとうっ」と一筋の涙を流して駆け出した。
その後ろ姿を、目の前の彼は追いかけようとしない。
もしそんなそぶりを見せたら足をかけてやろうと思っていたけれど、大丈夫そうだ。
ふうっと全身の力が少し抜ける。
「チッ」と彼の舌打ちが、校舎に囲まれた中庭に響く。
「道永さん、嫌がっていたじゃないですか。しつこく迫るのやめた方がいいですよ。もう彼女に金輪際関わらないでくださいっ」
「……うざ」
「わかりましたか?」
ジッと彼を見て、しっかり「わかった」と答えてくれるのを待っていたら、なぜか彼の口角が片方だけクイっと持ち上げられてフッと息を吐くように笑った。
嫌な予感がする。