花吹雪~夜蝶恋愛録~
ベッドで目を覚ましたのは、とっくに昼を過ぎた時間だった。
床では陸が眠っている。
「ねぇ、起きてよ。あんたいつまで人んちで寝てんのよ」
タオルケットにくるまり、体を丸めて眠る大型犬のような陸を揺すり起こす。
陸はむにゃむにゃしながら目を覚ました。
「んー。寝すぎたぁ。つーか、体痛いー」
のん気に伸びをする陸を見て、あまりの平和さにセナはすっかり気が抜けていた。
昨夜、消沈したまま帰宅したセナに、「この状況で寮には帰れないので」と言った陸は、部屋の中までついてきた。
セナは怒る気力もなくしていたので、「何かしたら殺すから」とだけ言い、好きにさせておいた。
約束通り、陸は指一本触れないまま、ただずっと、ベッドの中で泣くだけのセナの隣にいてくれたのだ。
「あたし、男と一晩一緒にいて何もなかったの、初めてかも」
「じゃあ、初体験っすね! 俺との初体験!」
「いや、それだと違う意味にしか聞こえないんだけど」
バカなやつだと思う。
でも陸のそういうバカさ加減に、今は心底救われる。
あの時、陸に会っていなかったら、ヤケになって何か取り返しのつかないようなことをしでかしていたとも限らないから。