花吹雪~夜蝶恋愛録~
あたしはナオキにとって、金ヅルだとしか思われていない。

だけど、樹里ちゃんは、こんなあたしの心配ばかりしてくれる。


そうだ、樹里ちゃんは最初からずっと、あたしのことを心配してくれていたのに、なのにその忠告を聞かなかった結果がこれじゃないか。



「ありがとう、樹里ちゃん。でもあたしは大丈夫だから」


そうとだけ言い、電話を切った。

顔を上げると、目の前には、心配そうにセナをうかがう陸の顔があり、笑ってしまう。



「ねぇ、お腹空かない? あんたの奢りでなら、ご飯食べに行ってあげてもいいよ」

「うわー。すがすがしいほどのタカりっぷりですね。俺新人な上に、昨日の件でクビになったかもしれないのに」

「知らないよ。あたしだって掛けで飲んでんだから、ナオキに借金ありまくるっつーの」


ふたりして金欠で、また笑った。


思い返せば、ナオキといて、心の底から笑ったことなんてあっただろうか。

ナオキといると、いつも不安しかなかった気がする。



「セナさん、元気っすね。昨日は泣き続けてたら、そのまま手首切っちゃうんじゃないかって心配してたのに」

「あたしは死なないよ。だってそしたらあんたが悲しむじゃない」


かつて自殺してしまったナンバーワンがいた。

残される側の悲しみは痛いほどにわかるから、だからあれからどんなに辛いことがあっても、セナは死のうとだけは思わないようにしているのだ。


セナの言葉に、陸は少し驚いたあと、「はい」と返した。


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