花吹雪~夜蝶恋愛録~
「じゃあ、この金はどうやって?」

「実家に帰って、親に土下座して借りたの」


バカな娘だと母に泣かれた。

昨日のことだ。



「あたしさ、ずっと親と折り合い悪くて、高校卒業してからすぐに家を飛び出したって言ったでしょ? で、あれ以来、初めて帰ったんだよね」

「………」

「予想通り、めちゃくちゃ怒られたけどさ、でも自分のために心を砕いてくれる人がいるって幸せなことなんだなって、しみじみ思ったよ」


本心から愛してくれないナオキと比べれば、特にそう思ってしまうのだけど。



「あたしね、ナオキのことほんとに好きだった。でもナオキの心の中にはあたしなんかいないでしょ?」


答えないナオキ。

だけどもう、落ち込んだりはしない。



「あたしもう『PRECIOUS』には行かない。ナオキとも会わない」


セナの言葉に、ナオキは何か言おうとして、でも言葉を飲み込み、代わりに「ごめん」とだけ。

とても悲しい目をしている。


図らずも、こんなことになって初めて、セナはナオキの素顔を見たのだと思う。
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