花吹雪~夜蝶恋愛録~
言って、背を向けようとしたセナを、ナオキが呼び止めた。



「なぁ、待って」


顔を向けると、ナオキの視線に捕らえられた。

店での顔ではない顔をしている。



「俺、ほんと言うと、セナのこと怖かった。本心では俺のこと疑ってるくせに、それでも信じようとしてるバカさ加減が、見てて痛々しくて」

「………」

「でも同時に、羨ましくもあったんだ。俺は臆病だから、金の繋がりしか信じられねぇけど、もしセナみたいに相手の心を信じられたら、何かが変わってたのかなって」


その『相手』が誰であるかは、聞かないでおく。

最後だからこそ、セナは笑って見せた。



「今までありがとう、ナオキ」


ずっとナオキがすべてだった。

辛いばかりの恋だったけれど、でも好きになれて幸せだった。



「じゃあ、ばいばい」


言うが先か、ナオキの返事も聞かないままに、セナは店を飛び出した。



今になって、溢れた涙が止まらなくなった。

でももう涙はこの場所に置いて行かなきゃならない。


あたしはこれから、新しい道を歩み始めるのだから。


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