花吹雪~夜蝶恋愛録~
帰宅すると、玄関ドアの前でうずくまっている男の人影が。
男はセナの足音に気付いて顔を上げると、満面の笑みだ。
「あたし、こんな野良犬に懐かれる覚えはないんですけどぉ」
嫌味は、しかし陸にはまったく届かない。
セナが鍵を開けると、陸はまた当たり前のように部屋に入ってきた。
「そんなツンケンしないでくださいよ。これでも俺、心配してたんですからね」
「何を?」
「セナさんをですよ。ナオキさんの顔見たら、気持ちが戻って、お金渡せないまま帰ってきちゃうんじゃないかって」
そんなことかと、セナは呆れ返ってしまう。
「あんたねぇ。さすがのあたしだって親に土下座してんだからバカなことできないよ」
はっきりと言ってから、振り向いた。
「で、あんたはそんなこと心配して、ずっとあたしの部屋の前で待ってたっていうの?」
「することないし。俺が『PRECIOUS』クビになったの知ってるでしょ? それに次の日に無断欠勤した分の罰金とかめちゃくちゃ取られて、無一文になった挙句に寮も追い出されたから、お金も行くとこもないって何回も言ったじゃないですか」