花吹雪~夜蝶恋愛録~
「俺もほんとはずっと、お前のこと好きだったよ」と、高槻は言った。
「初めてお前を見た時、びっくりするほど綺麗な女だと思った。男たちからは宝石箱の中で大事にしまわれてる宝物みたいに扱われてて、そんな中で人形みたいに常に同じ顔して笑ってる女だなって。でも時々、すごいつまんなそうな真顔に戻ってるのに、誰もそれに気付いてないのがおかしくて」
自覚はなかった。
5歳の頃から、完璧に演じていたつもりだったのに。
「今日、街で偶然会った時、見間違いかと思って、でも本物だと確信したら死ぬほど緊張して。あの時、なんて声掛けたか思い出せないって言ったら笑うか?」
それは、簡単に股を開くバカ女を騙す手口?
それとも本心で言ってるの?
裸のまま抱き合いながら、高槻は長いため息と共に彩の肩に顔をうずめた。
「何か夢見てるみたいだな。こんな風になっても、全然現実味がない。寝て起きたら、お前は消えてんのかなって」
それは私の台詞だと思った。
もう、嘘でも何でもいい。
それならそれで、私は喜んで騙されてやる。
「消えてほしくないなら、私のこと離さないで。ずっと傍にいてよ」
高槻は、返事の代わりに彩に口付ける。
「なぁ、名前は?」
「あみ」
自分の本名を他人に告げたのなんて、一体いつ以来か。
甘い夢の中にいるような気分のまま、彩は高槻の胸の中で目を閉じた。