花吹雪~夜蝶恋愛録~
花の命は短いものだと人は言う。
キャバクラ『Rondo』のフロアで、煌びやかなシャンデリアの下、客と酒を酌み交わし、談笑する。
腹の底ではくだらないなと思いながらも、彩は笑みを崩さない。
それが仕事だから。
「失礼します。彩さん、お願いします」
ボーイから声が掛かり、彩は客に「ちょっと待っててくださいね」と言って、席を立った。
「ご指名です。5卓に黒川さまが」
歩きながら言うボーイに、彩は嫌な客だなと思いながらも、「そう」と短く返した。
そんな彩の気持ちを知ってか知らずか、ボーイは口元だけで笑い、
「今月も確実にナンバーワンですね」
と、言う。
『Rondo』のナンバーワン。
彩が今まで築き上げてきた、それがすべての象徴だ。
「ほんとはそんなのどうでもいいんだけど」
思っただけのはずが声に出てしまい、ボーイに「え?」と返された。
「何でもないよ。気にしないで」
体が重い。
一体、どれだけの夜を繰り返せば、こんな日々が終わるのだろう。