花吹雪~夜蝶恋愛録~
美咲が『Rondo』に入店してから3ヶ月が過ぎた。
久しぶりに、客から「前のナンバーワンだった子はどうして死んだの?」なんて聞かれた。
前より少し余裕のできた美咲は、そういえば入ったばかりの頃によく話題にのぼっていたなと思い出し、仕事が終わったあと、思い切って、最近仲よくなった、七海に聞いてみることにした。
「ねぇ、七海さん。前のナンバーワンだった人のこと知ってます?」
こちらに振り向いた七海は、「知ってるよ」と言い、
「彩さんがどうかした?」
と、ロッカーの扉を閉めながら聞き返してきた。
美咲はどう言えばいいかなと思いながらも、素直に言葉にした。
「たまにお客さんから聞かれるんですけど、私知らないし。だから、どんな人だったのかなぁ、とか、ちょっと気になって」
七海は取り出した煙草に火をつけた。
そして、感慨深そうに煙を吐き出しながら、思い出すように言う。
「ちょっとびっくりするくらいの美人だったよ。でもだからってツンケンしてたわけじゃなくて、いつもにこにこしてて、みんなに優しくて。彩さんのまわりは、いつも花が咲いてるみたいだった。私は大好きだったな」
「そんな人が、どうしてまた」
自殺なんて、とまでは言えなかったが、美咲の言葉の先を読み取ったらしい七海は、自嘲気味に顔を歪める。
「どうしてだろうね。誰も、何も、理由なんてわからない。あとで思い返せば、彩さんの愚痴とか悩みとかは、一度も聞いたことなかったし。もしかしたら、ナンバーワンにしかわからない苦しみとかあったのかもしれないけど。ほんと、何も言ってくれなかったからさ」
七海は涙ぐんでいた。
二度と会えないところに行ってしまった人。
またふと脳裏をよぎった残像の冷たさに、美咲は小さく唇を噛み締めた。