花吹雪~夜蝶恋愛録~
待ち合わせた場所は、美咲の自宅マンションからほど近いところにあるコンビニだった。
時間通りに到着してきょろきょろしていたら、駐車場に止まっていた黒の四駆にパッシングされた。
豊原は窓を開けて「乗れよ」と言うので、美咲は言われた通りに助手席に乗り込んだ。
今日はTシャツにジャケットを羽織っていて、いつもよりは少しラフな恰好の豊原。
暗いし、狭いし、ふたりきりだしで、何だかちょっと変な感じがした。
豊原が煙草を咥えてシフトをドライブに入れたので、
「どこ行くんですか?」
と、聞いたみた。
「肉」と、豊原は端的に答える。
美咲は思わず笑ってしまった。
「肉食っぽい顔してますもんね」
「流行りの草食とやらよりはいいだろう?」
「いや、でも、野菜は大事だし。うちのおばあちゃんも、いつも野菜食べろってうるさくて」
言い掛けたところで、先ほど見た夢を思い出す。
途端に、それ以上、言葉が出なくなった。
そんな美咲を不可思議そうに横目に一瞥した豊原は、
「ばあさんがどうした?」
と、問うてくる。
考えてはダメだと首を振り、美咲は夢の続きに蓋をした。
「一緒にいた時にはうるさいとしか思わなかったけど、いざひとり暮らししてみたら、案外、寂しいものだなって」
「いなくなって初めてありがたみがわかったというやつか」
「そうなんでしょうね、多分」
窓の外に目をやった。
過去の残像が、コマ送りのようにフラッシュバックするばかり。