花吹雪~夜蝶恋愛録~



彩の休みは毎週水曜日だ。

昼に起き、特にすることもなかったが、コートでも新調しようかと、街に出てみた。


平日の昼間なために人は少ないが、しかし気の早いクリスマスソングの所為でずいぶんと賑やかに感じる。



何軒か目ぼしい店をまわったが好みのものはなく、それどころか街の空気に疲れてしまい、夕方になったのでもう諦めて帰ろうかと思っていた時。



「彩さん?」


呼ばれた声に、弾かれたように顔を向けて、ひどく驚いた。

彩を呼び止めたのが、高槻だったから。



「偶然ですね。今日は休みですか? それともこのあと仕事に?」


店にくる時にはいつもかっちりとスーツを着ているが、今日はラフなジャケット姿だ。

おまけに社交的な笑みを向けられ、彩はどうしていいのかわからなくなった。


と、いうか、本物なのか。



「あ、えっと、休みで、買い物しようかなって。でもいいもの何もなかったから、もう帰ろうかなって」


ぎくしゃくとしか答えられない彩に、高槻は笑って見せる。



「そうなんですか。僕も今日は代休だったんですけど、平日休みって何していいのかわからなくて。とりあえず街まできてみたけど、やっぱり特にすることもなくて」


高槻と話したことなんて今まで一度もなく、だから自分が『彩さん』と呼ばれていたことすら知らかった。

そんな高槻が、笑いながらフランクに話し掛けてくる。


彩は急に夢の中に放り出されたみたいな気分だった。
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