花吹雪~夜蝶恋愛録~



キャバクラのボーイという仕事は、何も、ただ出勤して卓に酒を運んで終わりというわけではない。


掃除や担当キャストの管理、クレーム対応は当然のことながら、上に行けば、つけまわしや会計管理、イベントの企画などをしなければならないため、実務時間は嬢より多い。

おまけにビラ配りなどの雑用まであり、とにかく忙しいのだ。



それでも、前にトシが言っていた。

「俺らの給料は歩合で、仕事は能力制だからさ、認められれば一気にホール長になれることだってあるんだよ。なら、上を目指したいと思うだろ?」と。


金が欲しい、認められたい、という気持ちはわかるが、だからって、自分だったら望んでまでやりたいとは思わない。



珍しく昼にやってきたトシは、「さっきまでミーティングだった」と言って力なく笑いながら、さくらの部屋のベッドに倒れた。



「2時間したら起こしてな」


で、またすぐに嬢より早く出勤して、開店準備をするらしい。


そんな睡眠時間でよく生きていられるものだ。

とてつもなく不憫に思ったさくらは、子供にするようにトシの頭を撫でてやる。



「どうしてそこまでするの?」

「だって入ったからには、テッペン目指したいって思うもんだろ?」


バイト程度でいいと思っているさくら。

でも、対照的に、トシはこの仕事を一生ものにしようとしている。



「俺さ、今の店長、嫌いなんだよ。最初はすごい人だと思って憧れてたけど、今はもう別人だろ。あんな人に『Rondo』を任せてたら、いつかダメになる。だから俺は早く実力をつけて、店長を蹴落としたいんだよ」

「蹴落としたいって……」
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