花吹雪~夜蝶恋愛録~
トシに役職がついたと聞いたのは、それからすぐのことだった。
役職といっても、普通の会社員みたいにいきなり立場が変わったわけではなく、ほとんど形だけのようなものらしいが、それでもトシが認められたのは確かなのだろう。
さくらは、嬉しいのか、寂しいのか、何だかよくわからない気持ちになった。
「トシくん、最近、頑張ってるよねー」
ロッカールームでセナに声を掛けられた。
見た目からして派手で、男好きですと顔に書いているみたいなセナのことが、さくらは少し苦手だった。
「そうですね」とだけ返したが、しかしセナはひとりで盛り上がっている。
「それにさ、よく見たら可愛い顔してるしぃ? あたしもトシくんが担当だったらよかったのにぃ」
「はぁ……」
「それに比べて、あたしの担当、全然使えないの。ほんとムカつく。もっとあたしに気遣えよって感じだし」
どうしてこんなに性格の悪い人がナンバー入りしているのか。
男って見る目がないなぁ、と、さくらはその度に思ってしまうのだが。
「ちょっと、うるさいんだけど。大声でバカみたいなこと言わないでくれない?」
いつの間にかやってきていた七海が不機嫌に言う。
その瞬間、セナは「はぁ?」と眉根を寄せた。
「何、あんた。いちいちあたしに突っ掛からないでよ。文句があるならあたしより上になってから言えっつーの」
「いちいち突っ掛かってくるのはそっちでしょ? みんなが迷惑してるって気付かない?」
「黙れよ、ブス!」
セナが七海に掴みかかろうとした瞬間、大声を聞き付けたのか、ホール長が入ってきて、慌ててふたりを引き剥がした。
女の園の、これが実態。
どんなに見せ掛けは煌びやかであろうとも、その実、愛や夢を売る側は、心がすさんでしまうものなのかもしれない。