花吹雪~夜蝶恋愛録~
「みんな、最近どうしちゃったのかしらねぇ」


横で騒ぎを傍観していた、現ナンバーワンの樹里(じゅり)は、ため息混じりに言う。



「彩さんがいた頃は、こんなことなかったのに。今は何だかみんな、ギスギスしちゃって」


彩は特定のキャストと慣れ合うことはなかったが、代わりに平等にみんなを可愛がっていた。

おまけに、店長と仲がいいということが周知の事実だったこともあり、多少の好き嫌いはあっても、みんなが彩の下で、それなりに仲よくしていたはずだった。


だけど。



「このままじゃあ、『Rondo』がダメになっちゃうわ」


樹里はトシと同じことを言った。


さくらだって、キャバクラ嬢という仕事云々は置いておいても、決して『Rondo』が嫌いなわけではない。

だから、樹里やトシが言いたいことも、何となくはわかるつもりだ。



「まぁ、私が彩さんとは違って、頼りないナンバーワンだから悪いんだろうけど。でも、女の子がこんな状態だし、今まで以上に店長やボーイのみんなには頑張ってもらわないとね」


じゃあ、私はどうだろうかと、さくらは考える。



最優先事項は、学業だ。

それを捨ててまで『Rondo』のために、とは、絶対に思えない。


だけど、少なくとも、トシや樹里はそうではないのだ。



「まぁ、バイトのさくらちゃんに愚痴を言っても仕方がないんだけど」


樹里は苦笑いして、ロッカールームを出て行った。


私はこのままここに、ダラダラといてもいいのだろうか。

ふと湧いた疑念を振り払い、さくらは息を吐いて目を伏せた。


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