花吹雪~夜蝶恋愛録~
「でも、具体的に何があったのか聞いても、言葉を濁して謝るだけで。だからこうして、セナに直接聞こうと思ってきたわけ」


あの新人は、ほんとに犬並みの頭しかないんじゃないか。

セナは呆れ返った。



普通、わざわざ客を怒らせたなんて自分から言わないだろうに。

おまけに相手はナンバーワンの客なのだから、言えばどうなるか、わからないわけではないはずだ。


しかし、一方で、どうしてあたしはあの時、陸の言葉に腹が立ったのかと、冷静になった今では首をかしげてしまう。



「別に何も」

「じゃあ、何で昨日、勝手に帰った?」

「しつこいなぁ。知らないよ。あたしじゃなくて自分の胸に手を当てて聞いてみたら?」


思っていたより語気が強くなってしまった。

言わないでおこうと思っていたはずだったのに、と、セナは、バツの悪さから目を逸らす。


ナオキは心当たりでもあるのか、肩をすくめ、



「悪かったよ」


と、すぐに言った。

ちっとも悪いと思ってないくせに。



「セナなら許してくれると思って甘えてた。セナの気持ち、ちゃんと考えてなかった。だから、俺が悪かった」
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