花吹雪~夜蝶恋愛録~



それからの食事は、当たり障りのない会話をするだけでやっとで、何を話していいかもわからず、ちっとも盛り上がらないまま終わった。


ふたりで店を出て、大通りに戻る。

高槻は片手を上げ、タクシーを止めた。



「乗ってください。送ります」


高槻はごく当然のように言うが、しかし食事だけであんなに緊張したのに、タクシーの狭い車内でまで一緒にいたら、今度こそ息ができずに窒息死してしまう。



「大丈夫です。近いですし」

「いえ、食事に誘って引き留めたのは僕ですし、夜に女性をひとりで帰すわけにはいきませんよ。最近は街中といえど、何かと物騒ですからね」


それでも断ろうと思ったが、運転手の迷惑そうな顔が目に入ってしまう。

あまり押し問答をするのも気が引けて、結局は促されるままにタクシーに乗り込んだ。


高槻も横に乗り、彩が自宅マンションの住所を告げると、静かに車は走り出す。



高槻はずっと、窓の外の流れる景色を見ていた。

彩は何も言えないまま、自らの膝の上でバッグを抱え、ただひたすらに、この沈黙に耐えるだけ。


まるで泥の中にいるみたいに、空気が重くてたまらなかった。


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