花吹雪~夜蝶恋愛録~
その日は、接客をしながらも、セナは上の空だった。
若い男もたまにいるが、それでも大半はハゲやデブばかりで、態度がどんなに紳士的でも、セナから見ればただのオヤジでしかない。
酒を飲んで喋るだけでも嫌だと思うようなお客もいるのに、なのにそんなやつらに性的なサービスをしなきゃいけなくなると考えたら、やっぱり現実問題、気持ちが悪いとしか思えなかった。
こんな仕事をしていたって、セナにも超えたくはない一線はあるのだ。
どうにもナオキの顔を見に行く気になれず、仕事が終わった後、セナは馴染みのバーにやってきた。
カウンターでぐだぐだと酒を飲んでは、考えて、ため息を繰り返す。
答えの出ない悩みにひとり悶々としていた時。
「あれ? セナさん?」
弾かれたように顔を向けると、そこにいたのは、『PRECIOUS』の新人、陸。
セナが驚いてぽかんとしていたら、
「うっわー、すごい偶然ですね! ひとりですか!? どうしているんですか!? ここ、よく来るんですか!?」
と、人懐っこい笑みで近付いてきた陸は、矢継ぎ早に聞いてくる。
まるで飼い主を見つけて目を輝かせている犬のよう。