花吹雪~夜蝶恋愛録~
「あんたこそ、何でいるのよ」

「俺、この前、友達にここ教えてもらって、気に入って。で、今日は仕事休みなんで、ひとりで飲もうかなぁ、って。ほら、酒強くなりたいし、色んな味を知りたいじゃないですか」


言いながら、陸は、当たり前のようにセナの隣のスツールに腰を下ろし、バーテンに「マティーニを」と言った。


さすがのセナも、その馴れ馴れしさには引いてしまう。

いくらプライベートとはいえ、仮にもあたしはナオキの客なのに、と。



「あんた、何でホストなんかやってんの?」


おおよそ、陸にホストらしさはなく、だから思わず聞いてしまったのかもしれない。


陸は、ちょっと遊んでいる大学生だと言われた方が、まだそれっぽい感じだ。

セナの問いにきょとんとした陸は、次にはくしゃっと笑った。



「先輩に誘われて。モテるよー、とか、酒飲めるよー、とか、いっぱい稼げるよー、みたいに言われて、じゃあ、いいかなぁ、って軽い気持ちで」

「………」

「でも、実際、思ってたのとまったく違って。全然、指名もらえないし、吐くほど飲まされても給料なんてほとんどなくて。多分、向いてないんでしょうけど」


笑みが、苦笑いに変わる。

出されたカクテルを傾ける陸に、セナは、



「じゃあ、何で辞めないの?」


と、たまらず聞いてしまった。
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