花吹雪~夜蝶恋愛録~
陸の、傷つけられた子犬のような顔を、見ていられなかったのかもしれない。

しかし、セナの思いに反し、陸は目に力強さを宿して返した。



「まだ何も見つけてないからっすかね」

「……『見つける』?」

「何がどうとかじゃないんですけどね。ただ辞めるのは簡単だけど、それだと逃げただけみたいでしょ? だったら、何か得てからでもいいのかなぁ、って」


よくわからないやつだと思った。

セナは首をかしげるばかり。



「働いて得るものなんて、お金以外に何があるっていうの?」

「経験とか、人との出会いとか、色々あるじゃないですか」

「ふうん」


そんなものに、何の意味があるというのか。



「あんた、純粋なんだね。あたしにもそんな頃があったような気もするけど、もう思い出せないや」


陸は純粋すぎるのだ。

対して、ナオキくらいわかりやすく汚れた男の方が、自分の醜さを隠してくれてるみたいで、楽でいい。


内心で自嘲したセナに、けれども陸は、



「ナオキさんをあれだけ想えるセナさんの方が、俺から見れば純粋だと思いますけど」


と、言った。

陸の屈託のない笑顔から、セナはたまらず目を逸らした。


< 92 / 113 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop